誰かに似た人?
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



夜明けが早くなり、
朝の冷え込みも一頃に比べれば随分と和らいだような気が。
相変わらずすったもんだはあったものの、
お姉様たちを送る卒業式も無事に終え。
ほぼそのまま突入したような春休みを
今のところはのんびりと過ごしておいでの、
三華様こと、いつもの三人娘たちであり。

 「春の公演というのはないのですか? 久蔵殿。」
 「………。(否、否)」
 「でも、1年掛けての大きい公演ツアーがあるんですよね。」
 「………。(頷、頷)」

相変わらず以心伝心が完璧な二人へ苦笑を向けたひなげしさんだが、
ならばともう片やへ話を振って。

 「シチさんは剣道部の春合宿とかあるんですか?」
 「そういうのはないなぁ。」

個人的に道場に通ってる人は、
昇段試験の関係とかあって春休みも忙しいのかもですが。

 「アタシが指南を受けている知り合いの先生は、
  好きにさせてくださってるもんで。」

なので、昇段試験もさほど小まめに受けちゃいないのと。
実力は相当のものだろうに、
表向きまだ初段という肩書で通しておいでの鬼百合さん、
芋けんぴを摘まみつつ、涼しいお顔で ほほと軽やかに微笑って見せる。
ここは女学園に間近い“八百萬屋”の、
住居スペースのほうの奥向きにある居間でございまし。
まだ終業式前なので、春旅行などという遠出は出来ず、
大人しくご近所で羽伸ばしをしておいでのご様子。
まだ片づけるには早いと継続稼働中のコタツに3方向から足を入れ、
持ち寄ったデザートやおやつを摘まみつつ、
雑誌を広げて今年の春はデニムが流行らしいと沸いてみたり、
Q街の春の売り出しはいつからでしたっけと、
スマホで情報サイトをチェックしてみたり…と、
のほほんという種の過ごしようを堪能しておいで。

 「………。」
 「あれ? 久蔵殿、それって島谷勘平さんの新刊じゃあ。」

コタツ回りに置いていた久蔵のバッグから、
新書版の小説がはみ出しかけており。
背表紙の作家名に気がついた平八が あらと手に取ったものの、

 「いつもの時代活劇シリーズじゃありませんね。」

挿絵に描かれてある人物の装束から察するに、
久蔵が贔屓にしている、剣豪と祓い師のお話じゃあないようで。
とんびと呼ばれる和装用の外套をマントのように羽織った、
しなびた袷(あわせ)に袴といういで立ちの男と、
片やは、軍服だろうか堅苦しいいで立ちのやはり男性とが、
同じ方向の何かへ表情を険しくして身構えており。

 「昭和の初めの話だ。」

江戸川某や横溝某の得意としたような、
日本が帝国と名乗っていた、何もかもが旧態依然なころを舞台に、
少々 伝奇っぽい雰囲気の探偵活劇物をお書きなのだとか。

 「じゃあ、これってホームズとワトソンってところなんでしょか。」
 「………。(かも知れん)」

こちらさんは、ゴマせんべいをぱりんと軽快に咬み割って、
醤油の香ばしさを堪能しつつ、
空いてた手の指先で袴姿の御仁を指さすと、

 「島田に似ていてな。」
 「………え?」

そちらさんはアンダーウエアのカタログ本の最新号を、
ぱらぱらりんとめくっていた七郎次が、
その名前へ敏感に反応したのは当然のことだったろが、

 「似てるって、どこが何がですか?」

顔を上げただけでは収まらず、
角っこを挟んでのお隣にいた久蔵へ身を寄せ、
彼女らが見やってた新書本を
自分も覗き込んで来た極端な積極さよ。
そんな彼女のエンジンのかかりようへ、
可憐だなぁと眸を細めた紅ばらさん。
そのまま本を手にするとぱらぱらと中をめくり、
別な挿絵があるところを開いて見せる。
そこには、木刀を手に暴漢と戦っているらしい、
袴姿の探偵役さんの勇ましい姿が躍動的に描いてあって。

 「これが一番判りやすい。」
 「……ホントですねぇ。」

反対側の横手から覗いたひなげしさんが感嘆したのは。
漆黒のマントをひるがえし、
大きな動作で何者かと対決しているその男性が。
豊かに波打つ鋼色の髪といい、
風を飲んでか肘までまくり上がっている袷の袖から
剥き出しになった前腕の精悍さといい。
乱れた髪の隙間から覗く眼光の鋭さ、
険しい顔つきの冴え、
頼もしい体躯の雄々しい屈強さ加減などなどが、

 「今の納まり返ってる勘兵衛さんじゃなく、
  前の頃の勘兵衛さんを彷彿とさせますよね。」

着ているものが黒っぽいのを白へと変換すれば、
そのまんまじゃないですかと、
妙な関心をしている平八がふと顔を上げれば、

 「………。」

挿絵より、その隣のページを読んでおいでか、
青い双眸がせわしく動いている七郎次であり。

 「……うあ、ホントですね。このお人、勘兵衛様みたいvv」
 「はい、ハートマーク来ました。」
 「…、…。(頷、頷・微笑)」

  な、なんですよ、その言い方。//////
  特に他意はありませんて♪
  貸すぞ。
  あ、ホントですか?///////

やだ嬉しいと、早くも手に取り
最初のページから読み始めんとする現金さよ。
お顔が嬉しそうにほころんでいる素直さといい、
もはやお友達が眼中になくなってそうな入れ込み具合といい、

 「…来年度も同じペースなんでしょうかねぇ。」
 「………vv」

一番しっかり者に見えて、実は一番他愛ないのかも知れぬ、
そんな白百合さんだとの見解を確かめ合った、あとの二人だったりし。
風に乗って甘い、梅の香も華やかな、
いよいよの春の到来だけれど。
こちらのお嬢さんたちに限っては、1年中が恋する季節。
だったら要らぬ波乱が起きませんようにと、
そっちも心掛けてほしい保護者の皆様の吐息が、
春一番並みの大きさに成りかねぬような気がするのは、
果たしてもーりんだけでしょか?(こらこら)




   〜Fine〜 12.03.08.


  *なし崩しな終わり方ですいません。
   スカパーの“金田一耕助シリーズ”にはまってしまった一方で、
   金田一さんのいで立ちが、
   一歩間違えたら勘兵衛様と一緒じゃんと
   気づいてしまったもんで。(気づいて?)
   ただ、勘兵衛様が金田一さんだったなら、
   ワケありな犯人との対峙では毎回情に流されてしまい、
   “斬れぬものがあったとは”とか言いつつ
   わざわざ知恵を出して逃がしてしまいそう。(おいおい)vv

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